包括利益経営  IFRSが迫る投資家視点の経営改革

包括利益経営 IFRSが迫る投資家視点の経営改革
IFRS関連の書籍の紹介です。

包括利益経営 IFRSが迫る投資家視点の経営改革

A5サイズ、ソフトカバーの本ですが、ページ数は500ページ程あり結構厚手の本です。文字のフォントも小さめで、かなり読み応えのある本です。



本書は、財務会計分野の専門家であると同時に、事業会社での経営にも携わったことがあるお二人の著者が経営者向けに書いた本であり、巷に多数出回ってIFRSの紹介本や会計基準の解説本とは、狙いそのものが異なっています。本書の「はじめに」に書かれている”本書の狙いで”は、次のように書かれています。


「本書は、両著者の事業会社での実務経験に基づいた視点から、包括利益に代表されるIFRS導入に伴う経営活動への影響を中心に解説している。経営者や経営企画部門、経理・財務部門をはじめとする管理部門の方々が、経営管理の視点から見たIFRSの本質を理解し、各企業でのIFRS導入の取り組みにあたって目指すべき方向や留意点がどこにあるかを把握できることに焦点をあてている。
(中略)
IFRS導入をきっかけに新たな経営改革を成し遂げるのではなく、そもそも日本企業が直面している現状の経営課題を打破するために、IFRSをどのように活用していけばいいのか――。これが両者の問題意識である。」


.-----------<目次>-----------

  • 第1章 IFRSが求める経営管理
  • 第2章 会計の価値観と経営へのインパク
  • 第3章 日本企業と社会が先送りしてきた課題
  • 第4章 IFRSが加速する経営改革のポイント
  • 第5章 これからの取り組み

内容的には、上記のように5章から構成されています。この中で、第4章を見ると、さらに次のような7つのポイントで構成されています。

第4章 IFRSが加速する経営改革のポイン

  1. シングルカンパニー・モデルによる連結経営管理基盤の再構築
  2. 経営管理基盤の整備と強化
  3. 投資家視点のキャッシュフロー経営
  4. 透明性の高い経営基盤の構築
  5. 真のCFO組織機能の確立に向けて
  6. 経営基盤としての税務戦略の策定
  7. IFRS時代の経営会計情報システム

上記のいずれを読んでも、なるほどと納得できるところが多いのですが、個人的には最初の「シングルカンパニー・モデル」のところに、自分自身の経験と一致するところが多く共感を覚えました。


シングルカンパニー・モデル
この概念は重要なので、少し長いですが引用します。
「連結企業グループでは、複数の会社法上の会社から構成されている。投資家にとって通常、その企業グループを構成する個々の企業には意味がなく、連結企業グループをあたかも一つの組織体として評価することになる。
 経営者側は当然、連結企業グループを一つの論理集団、すなわち『シングルカンパニー・モデル』として運営することが求められる。従来の子会社ガバナンスモデルから決別する時期を迎えているのである。
 シングルカンパニー・モデルとは端的に言うと、それぞれの連結子会社を一つの会社法上の会社としてではなく、いったん法的枠組みを取り払って事業拠点・部門として見なすことをいう。販売子会社は販売部門、製造子会社は製造部門、物流子会社は物流部門と考えるのである。」



日系企業と欧米グローバル企業との差は大きい
仕事柄、海外企業のITシステムを見ることが多いのですが、この考え方は欧米本社のグローバル企業のITシステム、特に管理会計の分野では、以前から取り入れられています。日系企業のシステムとの一番の違いはこの部分だと常日頃感じているところです。

日系企業では、本社と子会社がそれぞれ別のITシステムをもっており、それを連結財務諸表を作るときに、最終的に集計するといった感じなのですが、欧米本社の外資系グローバル企業では違っています。連結企業グループ全体を1つのITシステムで管理する構成になっており、まさに、海外にある子会社を、本社と同列のレベル、すなわち社内の一部門のように管理しています。


制度や仕組みの見直しが必要
そして、海外グローバル企業がこのようなITシステムを海外にある子会社に導入するには、単にITを開発するだけでなく、それ以前に本社と子会社の両方の制度や仕組みを見直す必要が沢山あります。会計分野であれば、勘定コードを統一したり、会計期間を統一したりなどです。作業の標準化などもそうです。それに従業員の意識改革も重要になります。(もしかすると、これが一番大変かもしれません。)

このような制度や仕組みの変更は、膨大な時間と労力がかかる仕事ですので、日系企業と欧米のグローバル企業の差はたいへん大きいと言わざるを得ません。経営者の観点で考えれば、IFRS導入はこの差を縮める活動に活用すべきということなのでしょう。


このように、本書は、IFRSという会計の新しいルールを解説した本ではありません。経営者がとして、IFRSの導入にあわせて企業全体として何をすべきかを解説した本です。また、本書は、ページ数も多く、内容も多岐に渡っているので、通勤電車の中で手軽に読むには不向きだと思いますが、内容的には、示唆に富んだ点が多く、企業経営者や経理・財務部門の方にはお薦めの本だと思います。




包括利益経営 IFRSが迫る投資家視点の経営改革

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