導入前に知っておくべき IFRSと包括利益の考え方 高田橋 範充著

昨日に引き続き、IFRS関連の書籍です。「導入前に知っておくべき IFRSと包括利益の考え方」 著者は、中央大学専門職大学院国際会計研究科(アカウンティングスクール)の高田橋範充教授です。

この本は、超おすすめです。外見はB6版くらいの小型本で、フォントも大きめでしかも行間も広く、一見するところ一般読者を対象とした啓蒙書のような感じなのですが、読んでみるとしっかりした内容の本です。世間によくある単なる日本の会計基準との細かな比較ではなく、本質的な部分に対する解説がされています。その解説も単なる説明にとどまらず、何故そうなったかの理由を答えてくれるもので、読んでいて納得間があり思わず引き込まれてしまいます。

導入前に知っておくべき IFRSと包括利益の考え方

  • 第1章 「IFRS包括利益」という考え方は適切か
  • 第2章 フレームワークから読み解く原則主義、企業価値評価、財務報告
  • 第3章 原則主義と公正価値会計の原点
  • 第4章 日本の会計には存在しないIFRSの思考法
  • 第5章 原価主義会計と公正価値会計との関係性 〜 IFRSの限界
  • 第6章 IAS1改定に見られるアメリカの反論 〜 包括利益の登場
  • 第7章 フェアー・バリューによるレポーティングとグローバル・スタンダードの展望
  • 第8章 包括利益を巡る問題の解決方法 〜 日本の対応とディスカション・ペーパーの提案


まず、最初の章で、IFRS国際会計基準と訳すのではなく、国際財務報告基準と訳す方が適切であるとの説明があります。これは単に英語の訳のことを言っているのではなく、IFRSが目指しているのが会計でなく、財務報告であるという本質的な違いがあります。単にIFRSと書いてしまうと、「IFRSが本来持つ革命的な要素を覆い隠すことになります。」

本書の中で、繰返し何度も出てくる言葉に、フレームワークという言葉があります。フレームワークは、一般的には物事を考え判断する際の考え方や枠組みのことです。IFRSはこのフレームワークの概念に基づいて構築されています。従来の会計では馴染みのない言葉で、このフレームワークを理解することこそIFRSの基本思想を理解し、効率的に理解するために必要だというのが本書の基本となっています。そのため、本書では、このフレームワークに正面から取り組み、従来の会計との違いを浮き彫りにしています。他の書籍では単に個々の会計処理に関する説明に終始しているものが多いように感じるのですが、この点が本書を極めてユニークなものにしています。

ただし、IFRS自体はまだ完成されたものではなく、ムービング・ターゲット(動く標的)であるとの説明も何度もでてきます。この点に関しても、IFRS制定過程を歴史的に遡って説明がなされています。特に、IFRS自体がアメリカの会計基準の影響を受け変化しているという現実があり、アメリカとの関係を軸にIFRSの変容がされておいます。そして、日本で流布している情報がアメリカおよびその会計基準であるUSGAAPを通してIFRSを見ている情報が多いと述べられています。USGAAPは、従来の会計の集大成だある訳で、それを通してIFRSを見ていると言うことは、日本ではIFRSを本質的に理解できていないということにも繋がることになります。

この本の最後に、「財務諸表の表示に関するプロジェクト」と「IFRSXBRLの関係」の2つの章があります。現在大きな話題となっている包括利益当期純利益の差異について、「ある意味で、計算方法の差異に還元できます。そうであるとすれば、データの開示があれば個々人の判断に従って、当期純利益包括利益のいずれも利用可能ということなると思います。」ということで、データ・レベルの財務情報の開示を可能にするXBRLが紹介されています。この部分は、個人的には、たいへん注目しているところです。

以上、個人的に気になる点を中心に簡単に紹介しましたが、IFRSは従来の会計基準とその目的と考え方そのものが異なり、パラダイム・シフトが必要なようです。本書を読んで、そのことが良く分かり、IFRSの全体像がすっきり頭に入った感じがしました。一般的に会計の本を読むと細かい規則が多くそこに目が行きがちになるのですが、そうではなく、IFRSの考え方、その革新性、従来の会計との違い、発展の経緯、問題点等が相互に関連付けられて理解できた感じがします。


実は、このような感じは、以前にも感じたことがあります。この本の著者の高田橋範充教授が講師をされている「アカウンティング」(http://market.bbt757.com/lecture.php?id=31)を勉強した時です。この講座は、企業経営者向けの講座で、できるだけ簿記を使わずに会計を理解してもらうことを特徴とした講座でした。この講座も、個々の会計処理の細部や仕訳等の細部にとらわれることなく、会計の考え方を理解でき、全体像を論理的に理解する助けとなりました。まず、「会計システムの基本構造」の説明があり、それを土台に「現代会計制度の様相」の解説がなされており、何度も繰返し勉強させてもらいました。こちらも超お薦めです。